ジュニアアスリートの“伸び悩み”と“成長”について考えてみる

【誰しもが直面する“伸び悩み”】

 多くのジュニアアスリート、指導者や保護者の方々が頭を痛めているのが“伸び悩み”でしょう。

「一生懸命練習しているのに思うように上達しない」

「少しうまくいったと思うと、すぐに元に戻ってしまう」

「治すべきところはわかっているのに、うまくできない」

そんな声を耳にすることが少なくありません。

 こんな時に、次のようなことを考えてしまうことはありませんか?

「練習量や努力が足りないんじゃないか」

「指導方法が間違っているんじゃないか」

「センスが不足しているじゃないか」

 もちろん、いずれも間違っていないかもしれません。でも、グループダイナミックス的な視点からは、少し違った見方ができそうです。


【見えざる前提】

 私たちが何か行動するとき、その根底に「見えざる前提」が存在しています。私たちの日常的な行動の多くは、特に意識をすることなく“当たり前”におこなわれます。

 スポーツの場面では、特に“当たり前”の行動が大切です。競技中に身体の動きのすべてをいちいち考えていては、とてもじゃありませんが迅速にプレーすることなどできません。重要なことだけを意識して、その他の動きは無意識にこなしているはずです。この“当たり前”を規定しているのが「見えざる前提」です。いわば行動の“基準”や“土台”となるものです。

 「見えざる前提」は競技をする上でとても大切なものですが、一方でプレーの限界も規定してしまいます。“当たり前”に無意識でもできる動きがプレーの土台となるため、プレーヤーの“当たり前”を超えた動きは、「当たり前のようにできない」からです。

 これが、“伸び悩み”にも関係していると考えられます。いくら練習を積もうとも、その人の「見えざる前提」が変わらない限り、“当たり前”の範囲の中で上手くいったり失敗したりを繰り返すことになるのです。

 ところが、厄介なことに、「見えざる前提」に本人は気づくことができません。あまりにも当たり前に意識することもなく行われる動きなので、“当たり前”の範囲内にいる限りは視界に届かないからです。「見えざる前提」に気づくのは、“当たり前”の範囲から抜け出したときだけだと思ってください。


【「センスメイキング」がもたらす“気づき”】

 グループダイナミックスでは、「見えざる前提」に規定された“当たり前”から抜け出す原動力は「センスメイキング」がもたらす“気づき”だと考えます。「センスメイキング」とは、過去の出来事を振り返る中で「目からウロコが落ちる」ように気づきを得ることです。

 伸び悩んでいた子供が、ある時を境に、急激に成長をすることもまた、多くの人が目の当たりにしていることだと思います。これが「センスメイキング」で、その瞬間に、それまでのプレーを規定していた「見えざる前提」から抜け出し、いくら練習してもできなかったプレーが“当たり前”にできるようになるのです。自転車に乗れるようになる瞬間を思い出してみてください。それまではどうしてもコケるてばかりだったのが、突然、嘘のように“当たり前”に乗れるようになる、あの瞬間こそが「センスメイキング」なのです。


【“伸び悩み”は成長の一部分】

 「センスメイキング」はそれまでの成功や失敗という試行錯誤の繰り返しから、気づきを得ることでもたらされます。いつ、その瞬間がおとずれるかは誰にもわかりません。必要なのは、成功と失敗を繰り返す経験と、そこから抜け出そうとする試行錯誤、つまりは“伸び悩み”の期間なのです。

 ただ、漠然と伸び悩みを繰り返していても、「目からウロコ」とはなりません。伸び悩みを適切に振り返ることが条件となります。その時点では答えが見つからなくても、「なぜうまくできていないのか」「なぜ少しうまくできたのか」を常に考え、積み重ねていく先に「センスメイキング」が訪れます。


【本質的な成長とは】

 「見えざる前提」に規定された“当たり前”の範囲内であっても、緩やかに成長することは可能です。ただ、その成長は“当たり前”の限界をこえることはできません。

 一方で「センスメイキング」による成長は、それまでの“当たり前”の限界を超えて、新しい“当たり前”のプレーをもたらしてくれます。新しい次元へとレベルアップする「本質的な成長」だといえるでしょう。

 このように考えると、“伸び悩み”も悪いものではないと思いませんか。練習や努力が足りないわけでもなく、指導方法が間違っているわけでもなく、単にそのプレーヤーにとって「機が熟していない」だけなのかもしれません。“伸び悩み”の期間が長ければ長いほど、たくさんの“当たり前”と向き合っているため、ひとつの気づきをきっかけに、連鎖反応的に新しい気づきが生まれ、その分だけ飛躍的な成長がもたらされる可能性を秘めているとも考えることができます。


「伸び悩みは成長のための助走期間で、ひとたび気づきを得ると、その分だけ高いレベルに飛び上がれる」


グループダイナミックス的に見たアスリートの“伸び悩み”と“成長”について、長々と綴ってみました。

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